不織布(ふしょくふ)とは
読んで字のごとく「織らない布状のもの」をいいます。普通布状のものは、織ったり編んだりしてつくります。これに対し不織布は、繊維を一定方向またはランダムに集積して接着樹脂で化学的に結合させたり、機械的に絡ませたり、圧力をかけた水流で絡ませたり、熱融着繊維で結合させてつくります。
参照(JIS L-0222〔不織布用語〕):
繊維シート、ウェブまたはバットで、繊維が一方向またはランダムに配向しており、交流、および / または融着、および / または接着によって繊維間が結合されたもの。ただし、紙、織物、編物、タフトおよび縮絨(しゅくじゅう)フェルトを除く。



不織布の歴史
繊維を糸や布に加工する技術を発見する以前の人類は、動物の毛皮や樹皮をほぐしたものを身にまとっていました。繊維(樹皮)を織ったり編んだりせずに布状にする。まさに不織布の原形です。
また、羊の原産地ヒマラヤ山脈からチベットにかけて遊牧民が、羊の体の毛がもつれているのを見て、これを人工的につくることを試みたのが最初のフェルトだといわれています。フェルトも不織布の一種ということができます。
不織布の歩み
1920年代、ドイツのフェルト業者が毛くずや紡毛などを接着剤で固めてフェルトの代用品をつくりました。これが工場で生産された不織布の第一号です。その後ドイツやアメリカで研究が進められ、第二次大戦で進歩を遂げた合成繊維や合成ゴムの材料を応用して、今日の不織布と同じようなものがつくられ始めました。
日本で不織布の生産が始まったのは、1954年に国内企業が米国から乾式不織布製造装置を導入してからのことです。その後、各社が次々と不織布の生産を開始しました。
1960年になると世界的な不織布メーカーのカールフロイデンベルグ社(現フロイデンベルグ社)と大日本インキ化学工業(株)(現DIC(株))、東レ(株)の3社合弁の不織布会社・日本バイリーン(株)が発足しました。
不織布の特長
不織布はポーラス(多孔質)構造であることが特長で、通気性・ろ過性・保温性などの基本特性があります。加えて、目的や用途に合わせてこの特長を引き出して機能を高めたり、多様な原料や製法の組み合わせによって布状・レザー状・綿状・紙状などさまざまな形状にしたり、しなやかなものから強靭なものまでつくることができます。つまり、必要に応じて機能と形状を自由自在に設計できることが最大の特長です。




不織布の原料
不織布には、多種多様な繊維を使用することができます。 詳細は以下の表を参照してください。
繊維 |
不織布での使用状況・用途など |
---|---|
綿 |
スパンレース製法により、ワイパー、医療用途に展開されています。 |
羊毛 |
羊毛独特の表面にあるスケール(うろこ状の表皮)により、繊維間が圧力と蒸気により縮絨されて、羊毛フェルトとして親しまれています。 |
麻 |
麻以外にもケナフ、バナナ、バンブー(竹)繊維などが新しい原料として注目されています。 |
パルプ |
製紙業界で広く使用されていて、湿式不織布にも使用されています。 |
絹 |
不織布の原料として一般的ではありません。理由としては、不織布をつくるにはカットして短繊維にする必要があり、絹の長繊維としての特長を生かせないからです。 |
鉱物繊維 |
石綿は、アスベストとして知られ、建築材料として断絶材に使用されていましたが、公害の見地から使用されなくなりました。玄武岩を原料としたバサルト繊維は、高温耐熱、高強度の特性があります。 |
繊維 |
不織布での使用状況・用途など |
---|---|
レーヨン(再生繊維) |
吸水性が要求される衛生材やナプキンに多く使われています。 |
ナイロン |
不織布では衣服の芯地や研磨材(たわし)などに使用されています。しかし、原料がポリエステルやポリプロピレンと比較して割高なため、使用は限られています。 |
ポリエステル |
一般的にPETと呼ばれ、不織布で使用される割合が非常に高い繊維です。衣料用、とくに防寒衣料の中わたとしても大量に使われています。 |
ポリプロピレン |
紙おむつなどのカバーストック材料に使われ、飛躍的に使用が拡大しました。一般的にPPと呼ばれています。 |
アクリル繊維 |
不織布にはあまり使用されませんが、炭化した炭素繊維やアクリル繊維に物性を付与したもの(静電気防止、抗菌、難燃など)があります。 |
ビニロン |
親水性、耐溶剤性、耐候性に優れ、建築でルーフィング基材として使用されています。 |
アラミド繊維 |
耐熱性、耐久性に優れ、フィルタ材、絶縁材などの産業用途に使用されています。また、防災用として衣服やインテリアなどにも使用され、脚光を浴びています。 |
繊維 |
不織布での使用状況・用途など |
---|---|
ガラス繊維 |
寸法安定性に優れ、耐熱性や絶縁性を必要とする用途に使われています。 |
不織布のメリットは何か?
不織布は繊維をそのままシート状にできるので、織物や編物のように繊維を紡糸する必要がありません。このため、織物や編物に比べて低いコストで実現できます。また、不織布特有の性質(ろ過性、保温性、通気性)に加え、原料や製法の組み合わせによってさまざまな機能を付与することができます。
不織布のデメリットは何か?
不織布はその製法上、織物や編物よりも耐久性が低いので、何度も繰り返して使用する用途には向きません。しかし、他の素材と合わせて使用したり(例:衣類の芯地など)、樹脂などで含浸したり(例:FRPなど)ラミネートの方法で耐久性を持たせることもできます。また、コストが安いので、ディスポ-ザブル(使い捨て)用途(例:おむつ、掃除用ワイパー、マスク、病院用の手術着や帽子など)では広く使用されている素材です。